●今年のトレンドワードは”Diversity”

SXSWのinnovation interactive awardでは、例年「Breakout Trend of the Event」として、その年のイベントを総括するキーワードが紹介されます。
本年は「Diversity」。
多様性。
え?
会期中それを聞いて、???となりました。
なになに?広すぎる。。
念のために、昨年までの4年間のキーワードです。

http://sxsw.com/interactive/awards/trend-of-the-event

見てお分かりの通り、一昨年までの3年間はブレイクした「サービス名」でした。それが昨年は「テーマカテゴリ」のワードに。
で、本年は「Diversity」。より抽象的に「一般概念」のワードに。

なぜこうなったのだろう?と考えました。

先の記事でも書いたことですが、徐々にSXSWインタラクティブの重心は「スタートアップサービス」「トレードショー出品物」という個々テクノロジーやサービス・プロダクトのインパクトから、その背景にある「将来Disruptされるべき課題」、つまりセッションテーマに移動してきているような気がします。
「今年のSXSWを一言で言えば、このサービス!」から
→「今年皆の話題に上がっていたセッションテーマはこれ!」
という変節なわけです。しかも今年は超カテゴリー級なワードに。。

同時に、主にセッションで底流的にとりあげられたこの”Diversity”が、来年以降のピッチやトレードショーでの諸サービスで、どのように実現されていくのか。そこをSXSWのエコサイクルも意識した上で、道筋として示したい、という意思の表れとも読めます。しかし今年こんなで、来年のキーワードは一体どうなるんでしょうか。。

●”Diversity”の内容。公式には。

SXSWで言われているDiversity(多様性)とは、具体的には以下の二つが中心でした。

①テック産業に黒人やヒスパニック従事者が非常に少ない、というマイノリティの問題

②そして同じくテック業界で女性の社会進出が遅れていること

こうした状況をDisruptしようとしているアクティビストなど、多くのスピーカーがこの問題を語っていました。しかし、人種の多様性にまつわる諸問題、というのは日本にいるとまだまだ実感が薄いテーマですよね。

そんな中から興味深かったものを3つほど。

<Princess Reema’s Mission to Empower Saudi Women>

サウジアラビアの王女にしてファッションブランドのCEOとして活躍する彼女は、アラブ社会の中でも特に戒律の厳しいサウジアラビア女性をエンパワーする存在。社会的な規範の中で乳がんの発見もままならない女性たちのために、啓発のためのピンクリボンキャンペーンを展開したり、自らブランドの海外展開やイスラム女性へ配慮したコスメコーナーの開設をするなど、先頭に立って女性の地位向上を推進する存在。
一方で、先進国での女性のパワーはマーケットリーダーとして、サービスのブレイクを決める存在になっているわけで、世界的にはまだまだ女性全体のパワーって物凄いポテンシャルを秘めているんだと改めて感じます。

<How Innovation Happens>

GoogleのエリックシュミットCEOと米政府CTOミーガンスミス氏が登壇。女性のテックパーソンとしてGoogleXの副所長も務めたミーガン氏は、women2.0という女性のテック人材の拡大を推進してきた人物であり、地位拡大のためには教育が重要不可欠と指摘。そのために自らも推進しているSTEM(科学、テクノロジー、エンジニアリング、数学)という新たな教育システムの重要性を説きました。

※STEM
http://www.makers.com/blog/importance-stem

●The Bombastic Brilliance of Black Twitter II

米国黒人のコミュニティの間では、Twitterが彼らの権利拡大のためのツールとして有効に使われていることを示すセッション。米国では先日ファーガソンでの事件で人種問題が再燃したばかり。ここでもTwitterが運動の拡大に重要な役割を果たしたそうです。やはり日本とはそもそも社会の抱える問題の日常インパクトが違うな、と。

その他、ヒスパニック系のテック業界進出についても多くのセッションが開かれていました。

●Diversityを更に解読(デコード)してみると。

マイノリティや女性問題という、社会的な課題以外にも、SXSWで話されていたセッションテーマにはまだ様々なDiversityの要素があるように思えました。今年のセッションテーマにはConvergence(融合)というワードもありましたが、これにも近いと思っています。

<Extreme Bionics: The End of Disability>
登山家で、事故で足を失ったHugh Herr氏(MIT MediaLab)のセッション。自ら開発した義足を用いて健常者と変わりなく生活できることを示しつつ、すでに障害を持つ人といわゆる健常者という境界はどんどん曖昧になって(=なくなって)くる、という話。素晴らしいです。

SXSW

前々回、Rothbrutt氏のスピーチの話を取り上げましたが、リアルな生と、DBに蓄積され生体として再現できちゃう生がどちらも?選択できるような、生と死の境界が曖昧になってくること。またジェンダーも曖昧になること。これも人生観のDiversityと言えるでしょう。

何かを独占されてきた、感覚や信念や能力を認められていなかった側がテクノロジーの力で同等のプレイヤーとして浮上してくる。するとそれは差別されるものではなくなって、機会の平等つまり選択肢のひとつということになって、その結果がDiversityという現象となって立ち現れてきます。
誰もが多様に=自分らしく生きられると。そうすれば、人生観や死生観すらガラリと変わってくるわけです。

同時にそのとき、いろんなものの境界、そして今までの常識が曖昧になってくる。

この他、ベイエリアの地価高騰に対するコンテナハウス群をオークランドに展開中のboxouseファウンダーの話、クルマ移動の変革だけでなく、クルマの所有からカーシェアへ、というLyftほか、日常生活手段のDiversityについても多くの経過報告が行われていました。


Boxouse

日頃見過ごしていながらも、実は単一的なルールの中で息苦しいUX(体験)となっているような社会的、物質的仕組みに、様々な切り口でメスが入ってくる、その震源ポイントとしてのセッションたち。”Diversity”の実現に向けて、来年も新たなDisruptの試みがなされていくでしょう。
SXSWは、こうした非常に重要なセッションが世界から集中するような、非常に稀なショーケースだと思います。

この他のテーマワードについては次回に!